TMレポート

ブログタイトルはそのままに、思いついたことを書く場所に変えました。。。

Aaron Frazer -Bad News- 歌詞の良さとその解釈を語らせてください

前回

tm-report.hatenablog.com

の続きを書きます。

 

Aaron Frazer アーロン・フレイザーの最大の魅力はこのファルセットボイスだと思う。悲しく繊細に歌い上げるのにこれほど適した声もないだろう。歌詞がこの歌声になぞられることで、むなしさ、寂しさを増幅させているように感じる。

 

PVにて、アーロンは遠くを寂しそうに見ながらずんずんと歩いていく様子が映っている。そこから着想し、歌詞和訳では敬語をベースにした。そうすることで、家族に対する距離を感じるようにするためだ。もっとも、このように言葉にすることで、実際には家族と距離をとることに未練があることがうかがえる。和訳では、そのバランスを敬語とタメ口のバランスとして調整することで表現したかった。

 

"I can barely keep it turning" を「もう限界なんです」 と思い切って意訳したのは、barely、keep の文字を見て、「これまで何とかやってきたけれど、もう、、、」という訴えが浮かんだためバッサリと意訳した。いや、訳とすらいえないかもしれない。私の英語力はたかが知れており、正しさは担保できない。しかし、私にはもうそう聞こえてしまったのだ。

 

度々登場するAll I know is That'd be bad news (私にわかるのは、それが悪い知らせになるということだけです) は、ここにもまたよさが潜んでいて、Bad newsにMyとかYourとか所有格がないところに複雑な心理が表現されているなぁとうなってしまう。

一見、”Bad”なのは「あなたにとって」というように見える。しかし繰り返し登場するこの歌詞が、自分自身にも言い聞かせているように聞こえてくる。自分としても、"I left you"(あなたたちの元を去る)という結果に結びつくのためらっていることがうかがえる。"Bad"なのは自分にとってもそう言えるのだ。決意と逡巡とを内包した素晴らしい歌詞だ。

まさに自分もそんな気持ちだった。自分の「やっぱり絶縁状態にはなりたくない」と思う気持ちも、DV男に耐え続けている女性のように、現状を変えたくないという恐れからきているのだろうか、と考えてしまったり。あるいは、だからこそ離れる必要がある、などと思い直してみたり。

 

You don't listen

(ほら、聞いちゃいない )

この歌詞は2度登場する。だから「ほらねやっぱり聞いていないんだ、届いてないんだ。」ということを表現するために、一度目の時とは違って、すてっぱちな言葉遣いにした。私は何度も”trying ”働きかけてきたし、 "tell you"伝えてきたし、" show you"示し続けてきたのだ。 それでも届かないのである。だからこそ「それは悪い知らせ」なのだ。

 

特に好きなパートがこれだ。

I know I'm getting older (大人になったけれど )

そう、私は大人になったのだ。I know つまり自分の成長を実感している。

But the winter seems much colder than before (前より冬が寒く感じるようになったよ)

「けれど」という反語を使ったが、むしろ成長したからこそ冬がより寒く感じるようになったのかもしれない。「あぁ、彼らに自分の気持ちは伝わらないんだな」ということを成長によって知ったからである。

We should stop and see what you've been doing to me

(俺たちは一度立ち止まって、あなたたちが俺に何をしてきたか知るべきだ )

ここにきて初めて、「あなたたち」へ具体的に切り込む。こちらの要望を伝えている。

この短い一文が、私が望む唯一のことなのだが、それは彼らには届かない。言っている本人もどこかで分かっているのだ。そしてこう結ぶ。

I can't take much more (でも、もう耐えられないんです )

 

そして一番最後。

I got bad news (俺も悪い知らせを聴いたよ)

結局あなたちのもとから離れることにしたのだ。「聴いた」と表現することでどこか他人事のように、現実感がまだない様子を表現したかった。

 

この曲を初めて聞いた去年、私の心境はまさにこの歌詞のままだった。しかし正直なところ、今は少し異なっている。この歌詞ほど気持ちは湿っぽくない。さっぱりしているというほどでもないけれど、以前よりうじうじした成分は格段に少なくなった。別に完全に関係を断つつもりもない。けれど、こちらから熱心にアクションすることはもうない。そういう自分なりのバランスを見つけつつある。TMレポートにしたのは、こういう心理状態が前田さんのそれと近いのでは?と感じたからだ。私から見れば彼もまた、複雑な家庭環境で育ち、独自のバランスにたどり着いたように見える。こうした理由から去年より、いろんな意味でのBad Newsを聴く機会は減った。

 

最近はマイルス・デイビス のIt Never Entered My Mindを聴いている。初めて聞いたバージョンは1958年の時のものだったが、1954年のバージョンの方が今は好きだ。

www.youtube.com

It Never Entered My Mind.

直訳すれば、「それは私の心に届かなかった」か。

拒絶を示したときの彼らの反応にうろたえていたかつての自分から、とくに気にせずスンとしている今の自分。タイトルもBad Newsより今の自分にフィットする。そしてまた、マイルス・デイビスは前田さんに教えてもらったアーティストだった。彼が飛ばしてくれた車の中で聞いたFramenco Sketchesは忘れない。結果マイルス・デイビスに戻ったことに不思議なつながりを感じる。